JGS51 DS-13 地盤品質判定士の役割と期待 発表内容
発表内容
1 北詰 昌樹
(東京工業大学)
地盤品質判定士の業務と判定士会の役割
地盤品質判定士の資格制度は,東日本大震災での大災害で顕著になった既存や新設の宅地の品質・安全性の評価・品質判定を行い,主に宅地における地盤災害の防止や軽減に貢献することを目的として2013年に創設された。また,判定士会は,住宅及び宅地の防災及び国民の安全に貢献するために,会員の技術の研鑽とモラルの向上,ならびに社会への啓発を図ることを目的に2015年に地盤品質判定士協議会の内部組織として設立された。判定士会では,本制度を着実に進め一般市民の方々に認知され定着していくための活動を着実に進めている。本稿では,地盤品質判定士の資格制度ならびに判定士会の設立の意義と目的,活動などを簡単に紹介したい。
2 諏訪 靖二
(諏訪技術士事務所)
地盤品質判定士が必要とするスキルについて
地盤品質判定士制度が誕生してはや3年が経過し,今後は地盤品質判定士の位置づけがなども明確になっていくものと思われる.しかし,判定士になったからといって,誰でも同じレベルで実際の業務がこなせるだろうかということに,一抹の不安を抱かざるを得ない.というのは,地盤品質判定士が身に着けておかなければならない専門知識は,地盤工学だけの範囲に限らず,建築工学にも及ぶ広範囲に及ぶことである.そこで,筆者の経験を通じて体得したことなどをもとに,地盤品質判定士として必要とされるスキルについて私見を紹介する.
3 森 友宏
(前橋工科大学)
地盤品質判定士制度の活用に関する課題
地盤品質判定士制度が創立されてから3年が経過したが,民間の宅地に対する地盤品質判定士の関わり方をどのようにすべきかは未だ定まっておらず,実質的な活動に結びついていないのが現状である。このような現状を打破し,地盤品質判定士制度を有効に利活用するためには,民間宅地市場が地盤品質判定士にどのような事を望んでいるのかを知り,またどのように貢献できるかを模索する必要がある。本報告では,実際に民間宅地市場に関わる建築士,不動産鑑定士,宅地建物取引業者の方々へのヒアリングを行った結果をまとめ,地盤品質判定士の利活用にあたっての喫緊の課題を示す。
4 菱沼 登
(地盤安心住宅整備支援機構)
建築地盤技術者の視点からの二つの問題提起と改善提案
「建築地盤技術者に対する地盤品質判定士の関わり方」と「戸建住宅業界の柱状改良工事に関する施工品質の問題」について、建築地盤技術者の視点から問題を提起し改善提案を行った。前者については、判定士に占める建築地盤技術者の割合が1割に満たないことが分かり、関わり方を検討した。また、後者については、戸建住宅業界の柱状改良工法において施工原理の軽視が散見されており、改良体の出来上がり品質の低下が懸念されるため、注意喚起を行うことにした。
5 大久保 拓郎
(環境地質サービス)
中村 裕昭
小野 日出男
戸建て住宅の基礎設計で告示1113号を引用する際の注意点
地盤品質判定士は,一般消費者や不動産業・建築士・弁護士・判事など異業種の関係者とコミュニケーションをとる必要がある.ここでは,関係する法規を踏まえたうえでの技術的な判断が求められるが,実際には関連する法規を正しく理解せずに運用されていることも多い.例えば,戸建て住宅の基礎設計に際して引用されることが多い「告示1113号」は,前提として建築基準法施工令で「支持力の確保と沈下・変形に対する安全の確保」が示されており,告示を運用する際にも様々な判断が必要となる.このように法規でも,調査の段階で技術的な判断が何度も求められており,これを実現することが「地盤品質判定士」という資格に求められる.
6 小野 日出男
(服部地質調査)
中村 裕昭
大久保 拓郎
住宅地盤の評価に対する一考察
住宅を建築する際,宅地の地盤調査としてスウェーデン式サウンディング試験が多用されている。この試験は操作が比較的容易で,鉛直方向の地盤の硬軟の状況を連続的に推定することができる利点があるが,土質を直接判断することができない欠点もある。<br>その結果,土質の見誤りに起因する地盤のトラブルが多く発生している。<br>本書では,主にスウェーデン式サウンディング試験を用いて地盤調査をする際の留意点,土質の見分け方,設計用地盤定数を設定する際の前提条件,地盤の許容応力度の計算時における問題点などを整理し,地盤トラブルの防止に向けた住宅地盤の評価方法について,既存文献等を参考にして考察する。
7 関谷 亮三
(ジャパンホームシールド)
小規模建築物の地盤評価について
戸建住宅での地盤調査と言えば、日本ではスウェーデン式サウンディング(以下、SWS試験)が代表される。しかし、戸建て住宅の不同沈下は毎年発生しており、SWS試験で地盤を適切に評価できているのか疑念が残る。コストと調査時間、細かくデータを取得できる繊細さなどメリットが多い反面、「許容応力度」での評価や貫入限界、土質確認などに関するデメリットもある。また、宅地造成の評価に関しては定量的に把握しやすい「許容応力度」だけを確認するに留まっているケースが多い。ここでは少なくとも造成中から「沈下(変形)」についても検討を行い、宅地完成後に実施するSWS試験結果と合わせて評価する方法を提案する。
8 大島 昭彦
(大阪市立大学)
宅地の液状化判定のための動的コーン貫入試験の開発
東日本大震災以降,宅地の液状化判定のための低コストで高精度な地盤調査方法の開発が課題となっている。大型・中型動的コーン貫入試験は標準貫入試験の補間や支持層を確認する目的などで宅地の地盤調査に用いられており,2014年に試験方法が地盤工学会で基準化された。さらに,地下水位測定と土質判定を行えば低コストで液状化判定が可能となる。本稿では,地盤品質判定士への情報提供として,大型動的コーン貫入試験による液状化判定のための手法と判定例を報告する。
9 尾上 篤生
(興亜開発)
蔡 飛
なんだか変だなア、その考え方
地盤の品質を考察する場合、まず物の見方や考え方が科学的でありたい。地盤や基礎に関する議論や設計・施工において、なんか変だなアと感じる考え方が散見されるが、それらを鵜呑みにすると地盤品質判定士としての判断を誤りかねない。圧密沈下速度、ベタ基礎と布基礎の特質、柱状改良や摩擦杭を併用したベタ基礎の支持力の考え方、新設や既設住宅下の地盤の液状化対策工法などについて、なんかおかしいな?と思われる俗説や指針の例をいくつか紹介し、適切な品質と妥当なコストに納めるべく科学的に考え直してみた。
10 藤田 安秀
(アジア航測)
高山陶子
花井健太
大規模な宅地盛土造成地の地形改変の把握と検証
近年、中越沖地震、東日本大震災等の大地震で、丘陵地の谷地形を大規模に盛土造成した宅地において滑動崩落が発生した。これに対して、国土交通省は平成18年度以降、宅地耐震化推進事業を促進させ、地方自治体は、大規模盛土造成地の抽出、変動予測調査等を実施するとともに、大規模盛土造成地マップの作成、公開をはじめている。本稿では、都市部の丘陵地域における造成に伴う地形改変の状況を効果的に把握し、精度の高い大規模盛土造成地を抽出した手法と、抽出結果について、現地調査結果を用いて検証した事例を報告する。
11 原 勝重
(新協地水)
東日本大震災によって被害を被った福島県内の宅地地盤の変状事例
東北地方太平洋沖地震の福島県内の震度は,福島県内59市町村のうち南会津・西会津地方を除く47市町村で震度5以上であった。また,会津地方を除く,中通り地方および浜通り地方の三成分合成加速度は,252~1,425galであり,特に郡山市,西郷村,白河市の中通り地方南部の三成分合成加速度は,1,110~1,425galと非常に大きいものであった。このように非常に大きい地震動に見舞われた宅地造成地においては,地盤の変状が至るところで見られた。本論文では,宅地地盤の変状状況調査から対策工施工までの事例を紹介するものであり,地盤品質判定士の皆様が本事例から既存の住宅地盤の調査・対策工に関する知見が得られることを期待するものである。
12 橋本 光則
(住宅地盤品質協会)
住宅地盤改良工事のトラブル事例とその対策
横浜マンションの傾斜問題を契機に、一般市民の意識は住宅の地盤改良工事にも向けられている。地盤品質判定士は、建築紛争に際して不同沈下などの現象に対してその原因を追究することを要求される。しかしながら多くの場合詳しい地盤データがない状況下での判断を求められることもある。また的確に地盤改良工事がされているかどうかについての判断を迫られるケースもある。トラブル事例と対策を通して今後の紛争解決の参考としたい。
13 山口 秀平
(復建技術コンサルタント)
佐藤 真吾
市川 健
盛土造成地上の木造建物被害率に影響する要因分析の一事例
大地震時における谷埋め盛土造成地の木造建物被害は盛土地盤の品質に大きく影響を受けるが、住宅が存在する状態で盛土地盤の品質を地盤調査で把握することは、個人の費用負担を考慮すると容易ではない。このため、造成年や現地盤勾配、旧地形勾配等の机上で得られる情報から当該宅地の地盤リスクが概ね把握できれば、宅地地盤補強の必要性の判断や地盤調査実施の意思決定に役立つものと考える。本発表は、2011年東北地方太平洋沖地震における仙台市造成宅地の木造建物被害データを用いて、机上で得られる情報から木造建物被害率への影響度合いを判別分析法によって分析した事例を報告するものである。
14 市川 健
(復建技術コンサルタント)
佐藤 真吾
山口 秀平
盛土材のスレーキング特性から見た仙台市造成宅地被害の特徴
東北地方太平洋沖地震により仙台市丘陵地の造成宅地では、滑動崩落が発生し、160地区以上が被災した。一方、全ての造成地で被害が生じたわけではなく、無被害であった地区も多く存在する。本論では、被害規模の大小や被害の有無について、基盤岩(盛土材)のスレーキング特性に着目し、今後の宅地地盤評価について考察する。
15 佐藤 真吾
(復建技術コンサルタント)
市川 健
山口 秀平
風間 基樹
宅地造成地の耐震性評価とリスクコミュニケーションについて
我が国は地震大国であり,今後発生するおそれのある大規模地震に対して,宅地造成地の防災・減災対策の促進が求められている。また,宅地造成地の地震防災・減災対策を促進するためには,宅地造成地の耐震性評価と利害関係者間のリスクコミュニケーションが必要不可欠であるが,その役割は地盤品質判定士に期待されている。
本稿は,「DS-13 地盤品質判定士の役割と期待」における話題として,宅地造成地の地盤リスクに関する研究結果を紹介するとともに,地盤品質判定士が利害関係者に対して行うリスクコミュニケーションについて考察を述べたものである。