《地盤品質判定士コラム第13回》住宅の沈下事故が絶えない高有機質土(腐植土)地盤

2022年12月28日

1.はじめに

写真1 泥炭1)

 住宅の不同沈下事故が無くなりません。特に気になるのが、高有機質土のうちでも泥炭地盤(俗称:腐植土)で多いことで、厄介なのは、地盤補強対策を講じても沈下事故が繰り返されていることです。泥炭の地盤特性、成り立ちと分布地帯並びに堆積地盤の形状、地盤補強対策の考え方について、簡単に説明します。

2.泥炭の地盤特性、成り立ちと分布地帯並びに堆積地盤の形状

2.1泥炭の地盤特性

 泥炭は、写真1に示すように、湿地性植物の遺体が未分解の繊維状態のままで堆積してできたもので、高有機質土に分類されます。日本統一土質分類では、表1に示すように、鉱物的な土粒子を主体とした粗粒土や細粒土の体系には入れない土として高有機質土を位置づけています。
泥炭の地盤特性は、概略次のとおりですが、詳しくは、参考文献2)をご確認ください。

泥炭の地盤特性

  • 有機物含有量、圧縮性が極めて大きく、かつ不均一を呈し、新たな荷重載荷で沈下(圧縮・圧密)する。
  • 酸性土のため、セメント系固化材の不適切使用で固化不良を起こす。
表1 日本統一土質分類における高有機質土(泥炭)

2.2泥炭地盤の成り立ちと分布地帯並びに堆積地盤の形状

<泥炭地盤の成り立ちと分布地帯>

 泥炭は、腐植土のうちでも植物遺体の堆積する速度が植物遺体の分解速度を上回る環境下の湖、沼、沢等において生成されます。泥炭堆積地盤は、昔は谷地(谷戸)と呼ばれ、これまで水田としてしか利用されてきませんでした。しかし、都市化の進展に伴い泥炭地盤上にも盛土造成による宅地化が急速に進みました。泥炭分布地帯は、全国に存在しますが(図1)、次に示すように、その成り立ちが各地で異なるところに特徴があります。

各地における泥炭の成り立ち

  • 北海道   微生物による植物遺体の分解活動が抑制される低温環境の下で広範囲に分布、ピートと呼ばれる。
  • 関東地方  おぼれ谷や台地に刻まれた谷(枝谷と呼ぶ)の出口が閉鎖され、湖沼化、沼沢化した地帯(図2)。
  • 長野県諏訪湖南東部  湖水低下に伴う低平地の泥炭化。すくも層と呼ばれている5)
  • 琵琶湖周辺  琵琶湖から独立した付属湖(内湖)の干拓泥炭化した地帯。すくも層と呼ばれている6)
  • 九州遠賀川中下流域  地殻変動による地盤沈下に伴う火山性せき止め湖の陸地泥炭化。そうら層と呼ばれる7)
図1 我が国の泥炭分布3)
図2 本流堆積物による枝谷出口の閉鎖と湖沼化4)

<泥炭堆積地盤の形状>

 図3に示すように、泥炭はその成り立ちからすり鉢状の地盤に堆積しており、この特徴が地盤対策を難しくして沈下事故を起し易くしています(図4)。関東地方では、泥炭が枝谷やおぼれ谷に堆積していることから、高低差を明確に表現できる標高マップを活用して分布地帯を確認することができます9)

図3 湖沼堆積物と泥炭(ピート)の生成4)
図4 埋積谷の盛土地8)

3.泥炭地盤における地盤補強対策の考え方9)10)

泥炭地盤には、上記のように、地盤特性やすり鉢状地盤等の特徴により、堆積層厚の違いによる不同沈下、セメント系固化材の固化不良、杭長一律設計の不可といった多岐にわたる設計施工リスクが存在します。これらのリスクを回避するためには、対応可能な地盤補強対策をしっかり選定し監理することが出来る専門的能力が必要です。杭状地盤補強による良質地盤への支持が対策の基本的になりますが、詳しくは、地盤品質判定士にご相談ください。

【参考文献】
1) 地盤工学会編:土質試験の方法と解説,2000.3
2) 国立研究開発法人土木研究所寒地土木研究所:「泥炭性軟弱地盤対策工マニュアル2017.3」p.5
3) 土質工学会編: 土質試験の方法と解説 p.592 1990 より転載、一部加筆
4) 土質工学会:土質基礎工学ライブラリー1「軟弱地盤の調査・設計・施工法」p.20、1978
5) 大島昭彦:「材料」講座「未改良の埋立地や低平地の地盤沈下対策3.地盤沈下と地域地盤特性」p.450 2019.5
6) 松尾さかえ:「内湖の機能再生をめざした歴史環境・地理学的研究 第2章内湖について」滋賀県立大学2007
7) 九州地方土木地質図編集委員会:作成61年3月「九州地方土木地質図」
8) 日本建築学会編:小規模建築物基礎設計指針 p.28 2008.2
9) 菱沼登:「住宅沈下が多発する関東地方の台地谷部における腐植土の特徴と地盤対策方法」第55回地盤工学研究発表会(京都WEB)DS-10-2 2020.7
10)菱沼登:2019年度第1回宅地地盤の評価に関する最近の知見講習会「高有機質土層が分布する住宅地盤の品質評価と対策-高有機質土層が分布する宅地用地における地盤対策方法と課題-」地盤工学会・地盤品質判定士協議会共催2020.1.28

菱沼 登

地盤品質判定士会幹事・技術士(建設部門)・一級建築士。ゼネコンの建築地盤技術者として、杭、土留め工事等におけるトラブル対策、研究開発、技術開発マネージメント業務に従事。その後、柱状改良のパイオニア会社での技術開発、品質管理、経営管理に携わる。共著に「ボーリング図を読む」。「先端強化型場所打ち杭工法の開発」で平成9年度地盤工学会技術開発賞グループ受賞。現在は個人事業主として、企業2社の技術顧問、地盤事故訴訟への意見書作成等に従事している。今後は、多くの地盤トラブル対策に従事した経験から、特に住宅の沈下事故削減に向けた活動で社会に貢献していきたい。

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