《地盤品質判定士コラム第1回》土質分類の不思議な世界           

2022年6月22日

 地球上の全ての構造物は地盤の上か地中に造られる.そのため,構造物を造るときに地盤をどのように扱うかは太古の昔から重要な課題であった.私達の生活の安全を確保するために必要な地盤に関する知識を体系化した学問を「地盤工学(Geotehcnical Engineering)」と呼び,それに必要な力学を「土質力学(Soil mechanics)」と呼ぶ.地盤工学の歴史は,人類が自らの住居を造りはじめた頃までさかのぼることができる.理論として土質力学が考案され始めたのは,18世紀頃からとされている.その先駆者は,フランスの物理学者として有名なC.A.Coulomb(クーロン)で,マルチニク島がの築城工事を担当し,その経験から土圧や摩擦に関する論文を発表している.その後,1920年代に盛土のすべり破壊や地盤沈下に関する研究などが行われ,地盤工学が体系化された.

 コンピューターが急速に発達している現在,工学の様々な分野での技術革新や学問,技術の発展はめざましく,数年前の最新技術も数年後には色あせてしまうものも多い.地盤工学の分野にもコンピューターの発達や計算技術の発展の恩恵を受け,非常に複雑な構造物と地盤との相互作用なども計算出来るようになってきている.しかし,残念ながら地盤工学での予測精度は,建物自体の強さの予測精度に比べて大きく劣っている.その最も大きな原因は,地盤が空間的に不均質であることである.さらに,地盤は鉄やコンクリートなどの人工材料と異なり,自然の材料であり,その重量,強さや圧縮性などの物理特性や力学特性は場所によって,また深さ方向にも大きく異なる.それに加えて,地盤は土や岩などに水や空気が混ざった材料であり,粘土と砂で性質が大きく異なったり,土中の水分量が増加すると強さが低下するなど,複雑な振る舞いをするためである.

 土や地盤・地面は毎日目にしているが,その存在を感じることは稀である.子供の頃に公園で泥団子を作って遊んだり,砂場で土を盛ってその中にトンネルを掘って遊んだことも多いと思われるが,その後は土を実感することは稀で,地すべりや地震時の液状化などの地盤災害を目にして,初めてその存在と危険性を実感することが多い.

 土と一括りに言っても,土は千差万別である.土粒子の大きさで区分すると,細かい方から順に,粘土,シルト,細砂,粗砂,砕石,岩・・・と分類できる.さらに,土の特徴や生成過程から分類すると,火山灰質土,有機質土,海成土,陸成土・・・に区分でき,さらにシラス,関東ローム,まさ土,ピート土などの地域特有の土もある.土の強さや圧縮性などの特性は土の種類によって大きく異なることは容易に理解出来る.

 様々な土を工学的に分類する指標として,土のコンシステンシーがある.土は含まれる水分が少ないとパサパサで半固体の様な性質を示す.水を少し加えると土はドロッとした塑性状に,さらに水を加えるとドロドロの液体状に変化する.この半固体から塑性体へ,塑性体から液体状に変化する状態の土に含まれる水分量をそれぞれ塑性限界と液性限界と呼ぶ.塑性限界と液性限界は,土の粒度分布や鉱物の種類によって大きく異なり,砂質土では両限界とも小さく,粘土分が多くなると大きくなる.また,一般にモンモリナイト系の粘土鉱物を含む粘土の液性限界は高く,カオリナイト系の粘土鉱物を含む粘土の液性限界は低いことが知られている.液性限界と塑性限界の値は直接設計に用いられるものではないが,土の種類と性質を大まかに推定することに使われる重要な指標である.

 塑性限界は,皿に土を盛り,中央部に切れ目を入れて,1cmの高さから皿を落下させ,二分した溝の底部が長さ1.5cmにわたり合流する時の落下回数が25回に相当する土の水分量である(図-1).一方,塑性限界は,土をガラス板の上で手で転がしながら紐状に延ばし,直径3mmの時に土が切れぎれになる時の水分量である(図-2).一見すると,子供の遊びの様な試験であるが,正真正銘の地盤工学会の基準であり,JIS規格でもある.当然,試験の精度は試験者の技量に大きく依存するが,所謂プロの手にかかるとピタッと正確な値を出してくれる.

図-1 液性限界試験(https://search.yahoo.co.jp/image/)
図-2 塑性限界試験(https://www.bing.com/images/)

 さて,図-3と図-4は,プロや熟練技術者のレベルに達するまでに必要な試験経験についての研究の一例を示している.研究では試験経験のない3名の試験員を対象に,試験員Aは土質試験に従事して7 ヶ月経過後約半年間隔で,試験員Bと試験員Cは,6 ヶ月と1 年経過時に液性限界試験と塑性限界試験を行っている.図中の「熟練試験員の分布範囲」と「熟練試験員の変動係数」は,試験経験回数500 回以上(土質試験に従事した経験年数10 年以上)の試験員による実験結果である.実験結果より,液性限界・塑性限界ともに,全体的に試験経験回数 30 回程度まではばらつきが大きいが,40 回程度以降は値がまとまっており,「熟練試験員の分布範囲」に入っていることが見られる.このことから,熟練技術者になるには,試験を50 回程度以上(土質試験に従事した経験年数1 年以上)実施することが必要と述べている.また、熟練試験員であっても、試験値には数%程度の誤差は避けられないことも示している。

 試験法も厳密ではなく試験結果も試験者の技量に大きく依存する液性・塑性限界試験は、日頃からミクロンオーダーの精度の中で生きている機械技術者などにはとても理解されないであろう.しかし,多種多様な土質を対象とする地盤技術者にはこのような曖昧さも許容しトータルに地盤を観察し理解する素質が必要とされる不思議な世界でもある.

図-3 試験経験回数と液性限界,変動係数(鈴木ほか)
図-4 試験経験回数と塑性限界,変動係数(鈴木ほか)

参考文献  

鈴木 直文,眞島 淑夫,中野 義仁,柴田 東:液性限界・塑性限界試験結果への試験員の熟練度の影響,第47回地盤工学研究発表会発表講演集,pp. 201-202, 2012.

北詰昌樹(地盤品質判定士会理事長)

現:地盤品質判定士会理事長。地盤工学・軟弱地盤対策のエキスパートとして国内外問わず精力的な活動を続けている。出版に携わった代表的な著書に、『セメント系固化材による地盤改良マニュアル』等がある。