《地盤品質判定士コラム第20回》造成地:盛土って危ないの?

1.はじめに

 「(造成地の)盛土って危ないの?」という問いに、「危ない盛土」と「安定した盛土」が、ともに存在するとお答えします。

 盛土は、「所要の性能を有するように土砂を盛りたてた構造物」であると考えます。所要の性能とは盛土の供用期間を通じて、降雨や温度変化などの環境条件の変化や、地震のような外的要因により盛土自体が有害な変形を生じない事はもちろん、盛土の上部に載荷される荷重を支えることができて有害な沈下を生じない性能です。したがって盛土がその性能を発揮するためには、盛土を構築する箇所の地盤(基礎地盤)が建物や擁壁を含めた盛土構造物を安全に支持できること、有害な沈下を生じないことが必要となります(基礎地盤の沈下については、本コラムの第13回、14回等をご参照ください)。

 そのために盛土基礎地盤の地層構成や地層毎の土質・水理特性、地下水の分布などの調査・試験・解析を行います。

 盛土本体も、使用する材料(盛土材)の土質試験結果をもとに(必要があれば補助工法を併用し)、施工方法や基礎地盤の性状を考慮した慎重な管理の下に施工します。

 完成した盛土は、性能維持のために定期的な維持管理(のり面植生や排水設備などの管理等)を行う事により安定が担保されます。

 しかし、現実には地山に比べて盛土地盤は危ないといわれ、盛土地盤のトラブルは後を絶ちません。何故でしょう?

2.盛土の性質

 盛土は名前が現すように、土砂を盛り立てた構造物です。ここで、盛土を形作る土についてお話しします。

 土の塊は図1に模式的に示すように、土粒子(石や砂・粘土など)と土粒子の周りに付帯する水と空気から構成されます。

図 1 土の構成(https://dobokukoumuin.com/dositusoku1/ から引用加筆)

 

 盛土を構築するとき、盛土材を締固めることが大切であると言われます。締め固めることによる土の状態の変化を図2に示します。①と②の曲線は締め固めるエネルギーの大小を表します。 (a)のグラフは土塊に含まれる水の割合(横軸:含水比w)と締固めた土の密度(縦軸:乾燥密度γd・・・水分の大小が密度に影響するため乾燥状態で比較します)、締固めるエネルギーとの関係を示します。このグラフから締固めエネルギーが大きいほど土の密度が大きくなること、同じエネルギーでも含水比の大小により締め固めた土の密度が変化することを示しています。横軸のwoptはそれぞれの締固めエネルギーで土の乾燥密度が最大(最大乾燥密度γdmax.)となる含水比を表します。これを最適含水比と呼びます。

図 2 締固めエネルギーと土の状態(出典不明)

 

 (b)のグラフは横軸に含水比、縦軸に土の強さを示したものです。この図からエネルギーの大小にかかわらず、woptよりやや少ない含水比のとき土の強度が最も大きくなることが判ります。また締固めエネルギーが大きいほど高強度を示します。

 (c)のグラフは土の圧縮性を比較したものです。この場合もwoptよりやや少ない含水比のとき圧縮性が最小となります。また締固めエネルギーが大きいほど圧縮性も低くなります。

 (d)のグラフは土の透水性(水の通しやすさ)を比較したものです。この図から透水性は最適含水比よりやや高い含水比のときもっとも水を通しにくくなります。またエネルギーが大きいほど透水性も低くなります。

 このように、土はその材料土毎の最適含水比程度に水分調整して、できるだけ大きなエネルギーで締固めることにより、密度が大きく、高強度で、圧縮正が小さく、水を通し難い、丈夫な盛土となります。ただし、日本全国に広く分布する火山灰土やまさ土(花崗岩が風化した土)など、土粒子が脆弱なものは締固めのエネルギーで土粒子が細粒化するため、必ずしも大きなエネルギーで締固めることが適切でない土もあります。

3.盛土が不安定化する原因

 前節で材料土の特性に応じた締固めを行う事により丈夫で、圧縮し難く、水を通し難い盛土が出来上がることを述べました。しかし、丈夫な盛土も不断のメンテナンスを怠ると不安定化することは避けられません。

 盛土構造物を破綻に導く主たる要因に、盛土内部に浸透する水分が挙げられます。土に含まれる水の割合が増加すると土の強さが低下し、細粒な土ほどその傾向が著しくなります。したがって、盛土の水と接する部分には水浸による強度低下の少ない粗粒度(石や砂礫)を用いられる事があります。

 この強度変化は短期的には可逆的ですが、長期的には乾湿の繰返しにより土粒子が劣化(風化)して土粒子の強度が低下する可能性が高いため、水浸時間を短くするために排水施設の維持管理はとても重要な事項となります。

4.盛土に関する最近の動向と課題

 2021年8月に熱海で発生した泥流災害のように、高度成長期以降建設工事により発生する土砂(建設発生土)や廃棄物を安く処理するために、人里離れた丘陵地の谷筋に建設発生土や廃棄物を不当に投棄したものや、不適切に施工された盛土が崩落して多大な被害を発生する事件や事故が度重なってきました。

 このため、盛土等による災害から国民の生命・身体を守るため、従前の「宅地造成等規制法」を法律名・目的も含めて抜本的に改正し、土地の用途(宅地、森林、農地等)にかかわらず、危険な盛土等を全国一律の基準で包括的に規制することを目的とした「宅地造成及び特定盛土等規制法(通称”盛土規制法”)」が令和5年5月26日から施行されます。

 この法律が有効に運用されることにより、今後建設される盛土構造物の安全性が高まることが期待されます。宅地造成の場合の盛土の概念図を図3に示します。

図 3 盛土等防災マニュアルの改製概要と考え方(案)
https://www.mlit.go.jp/toshi/web/content/001599010.pdfから抜粋

 しかし、これまでに構築された盛土構造物は、使われた盛土材、盛土構造、締固め度、排水対策工、維持管理等々その品質が判らないものも多く、その安全性は評価できません。

 不安定となる危険性を内包する盛土構造物は、その表面に不安定である証拠を現していることがあります。注意深く観察することでその証拠となる事象を発見することが出来るかもしれません。不安な事象を見出した場合は、盛土構造物に関する知見を有する技術者の意見を聞くことも、不幸な事故を未然に防ぐために有効な方法です。

田尻 雅則

地盤品質判定士。田尻技術士事務所 代表。
主に構造物の基礎地盤や材料土としての軟弱土や火山灰土の評価判定、地すべりや斜面崩壊対策を専門としてきた。2016年発災の熊本地震以降は、地盤品質判定士会 熊本地震対策部会長として被災者対応。
土木・建築事業にかかる地盤調査・試験・計測・解析業務のかたわら、土木・建築に関連する裁判や民事調停に関与。
今後はこれまで得てきた知見や経験を、社会一般にわかりやすい形で還元したい。

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