《地盤品質判定士コラム第17回》宅地造成及び特定盛土等規制法(盛土規制法)について

 令和4年5月27日に盛土規制法が公布され、令和5年5月26日の施行に向けて、現在、政令・省令・技術マニュアル等の整備が進められている。この法律は、令和3年7月、静岡県熱海市で大雨に伴って盛土が崩落して土石流となり、甚大な人的・物的被害が発生したことが契機になっている。この災害後、全国に点在する盛土の総点検を行った結果、令和4年3月時点において、是正が必要な盛土が1000箇所余りあることが報告されている。これまでも、宅地の安全確保、森林機能の確保、農地の保全等を目的とした各法律により、開発の規制が行われてきたが、各法律の目的の限界等から、盛土等の規制が必ずしも十分でないエリアが存在することが明らかになった。この様な背景から、盛土等による災害から国民の生命・身体を守るため、「宅地造成等規制法」を抜本的に改正し、土地の用途(宅地、森林、農地等)にかかわらず、危険な盛土等を全国一律の基準で包括的に規制することが、盛土規制法の趣旨である。

 また、法律の目的として、①スキマの無い規制、②盛土等の安全性の確保、③責任所在の明確化、④実効性のある罰則の措置があげられている。以下、①と②について、その概要を説明する。

1)スキマのない規制

 盛土規制法において想定する災害は、「宅地造成、特定盛土等又は土石の堆積に伴う崖崩れ又は土砂の流出」であり、主として地震や降雨による盛土等の表層崩壊、大規模崩壊、盛土等の崩落により流出した土砂が土石流化する現象である。宅地造成等工事規制区域においては、主に盛土等の表層崩壊や大規模崩壊による近隣の人家等への被害を想定し、特定盛土等規制区域においては、主に盛土等の崩落により流出した土砂が土石流化したことによる、下方の人家等への被害を想定している。規制区域において想定する災害のイメージを図1に示す。なお、これらの規制区域の他、盛土等の崩落により下方にある河川がせき止められ、湛水や氾濫によって人家等に被害を及ぼす場合等、地域の実情に応じて、都道府県等がこれらの被害を想定した規制区域を指定することも可能としている。

図1 規制区域において想定する災害【出典:国交省HP「盛土等防災対策検討会」(第3回)】

 盛土規制法では、盛土等に伴う災害から人命を守ることを主たる目的としているため、人が居住し、又は活動を日常的に行う蓋然性の高い人家や施設などの存する土地や、人が日常的に往来する蓋然性の高い道路(高速自動車国道、一般国道、都道府県道、市町村道、林道・農業用道路など)等の公共施設などを保全対象として想定している。また、宅地造成等工事規制区域における市街地や集落に隣接・近接する土地の区域とは、平地では保全対象から少なくとも50m程度、傾斜地では数百m以上でも可能としており、特定盛土等規制区域では、保全対象の存する土地の区域に対して、勾配2度以上で流入する渓流等を抽出して、区域指定することとしている。区域指定のイメージを図2に示す。

図2 区域設定のイメージ図【出典:国交省HP「盛土等防災対策検討会」(第3回)】

2)盛土等の安全性の確保

①盛土規制法の政令(技術基準)

 宅地造成等規制法施行令の「土地の形質変更に関わる技術基準」の内容に加えて、新たに以下の事項が規定されることとなった。地下水処理等の排水施設の強化、渓流部における大規模な盛土に対する安定計算の追加、擁壁に加えて崖面崩壊防止施設の追加などが、主な改正点である。

●擁壁、排水施設、その他の施設:新たに「崖面崩壊防止施設」を追加

●地盤について講ずる措置

  • 盛土内に浸透した地表水等を排除するための透水層の設置。
  • 山間部における河川の流水が継続して存する土地その他の宅地造成に伴い災害が生ずるおそれが特に大きいものとして主務省令で定める土地において高さ15メートル超の盛土をする場合は、土質試験その他の調査又は試験に基づく地盤の安定計算により盛土後の地盤の安定が保たれることを確認。

●崖面及びその他の地表面について講ずる措置

  • 擁壁又は崖面崩壊防止施設の設置を要さない崖面には石張り等の措置。
  • 崖面以外の地表面には植栽、芝張り等の措置。

●排水施設の設置

  • 盛土をする場合において、盛土をする前の地盤面から盛土内へ地下水が浸入するおそれがあるときについて、地下水を排除する排水施設の配置・構造を規定。

 上記の「土地の形質変更に関わる技術基準」について、そのイメージを図3に示す。

図3 土地の形質変更に関わる政令のイメージ【出典:国交省HP「盛土等防災対策検討会」(第4回)】

②盛土等防災マニュアル

 現行の宅地防災マニュアルが、農地や林地における盛土等も対象にした盛土等防災マニュアルに変更になります。現行の宅地防災マニュアルからの主な改正点は以下の通りです(図4参照)。

●地下水排除工

  • 暗渠排水工、基盤排水層、暗渠流末の処理、施工時の仮設排水対策の必要性について記載。
  • 暗渠流末の処理においては、マス、マンホール等の暗渠流末の保護方法について記載。

●盛土のり面の安定性の検討

  • 地下水及び間げき水圧の上昇が懸念される盛土は、間げき水圧を考慮した安定計算により安定性を検討することが望ましいことを記載。
  • 渓流等においては、安定計算を必要とする高さ15メートル超の盛土については、間げき水圧を考慮した安定計算を標準とする旨を記載。
  • 十分締固めた盛土では液状化等による盛土の強度低下は生じにくいが、火山灰質土等の締固め難い材料を用いる盛土や、高さ15メートル超の盛土については、液状化判定等を実施することを記載。

●渓流等における盛土の基本的な考え方

  • 盛土の高さは15メートル以下を基本とし超える場合は、より詳細な地質調査、土質試験等を行った上で二次元の安定計算を実施し、基礎地盤を含む盛土の安全性を確保する必要がある旨を記載。
  • 渓流等における規模の大きな盛土は、二次元の安定計算に加え、三次元の変形解析や浸透流解析等により多角的に検証を行うことが望ましい旨を記載。
図4 盛土に関するマニュアル改正点のイメージ【出典:国交省HP「盛土等防災対策検討会」(第4回)】

 簡単ではあるが、盛土規制法に関わる「規制区域の指定」及び「技術基準」の概要等について整理した。法の施行となる令和5年5月26日以降、全国において、宅地・盛土防災に関わる活動がこれまで以上に展開されることを期待する。

門田 浩一

・地盤品質判定士、博士(工学)、技術士(総監・建設部門)

・所属:パシフィックコンサルタンツ株式会社

・専門分野:宅地等の土構造物の耐震・地盤対策に関わる解析設計

現在、盛土規制法関連の法令・技術マニュアルの作成等に従事

・主な活動:地盤工学会理事、地盤品質判定士協議会理事、建コン協会土質・地質専門委員会委員長、土木学会地盤工学委員会委員、地盤工学会残土検討委員会委員

宅地地盤の防災技術及び新たな盛土規制法における地盤品質判定士の役割等に関心。

#宅地造成 #盛土規制法