《地盤品質判定士コラム第15回》最適含水比の土なのに締め固まらないのはナゼか?!
~締固め能力が不十分な転圧機械はトラブルの元~

2022年12月28日

 2011年の東日本大震災における宅地地盤の多数の被害を教訓として,宅地地盤の品質向上の機運が高まり,近年では大規模造成宅地地盤の締固め管理基準が平均締固め度で87%以上となるなど,格段の進歩を遂げている。

 しかしその一方で,住宅基礎の不同沈下や,擁壁背面の沈下の事故が後を絶たないのは,大規模造成宅地の築造後に比較的小規模な工事に伴う掘削埋め戻しを行う際に,適切な締固め能力を持った転圧機械で締め固め作業を行っていないことに起因するものであろう。地盤を十分に締め固めなければならないことは,地盤に携わる者には常識であり,いまさら締固めについて議論するのは時間の無駄であると思う方も多いと思うが,果たして本当にそうであろうか?土質力学や地盤工学の教科書または室内試験の手引書を読み,多少の締固め試験の経験を積んだことで,土の締固めについて解ったつもりになっていないだろうか?

 一般的な土質力学や地盤工学の教科書,または室内試験の手引書に掲載されている土の締固め曲線は,図1(参考文献1より)のようなものである。

図1 締固め仕事量と締固め曲線1)

グラフは上に凸の曲線を描き,最大乾燥密度と最適含水比が定義される。締固め曲線は締固めエネルギーに応じて変化し,一般的に締固めエネルギーが大きくなるほど曲線は左上に移動し,締固めエネルギーが小さくなるほど曲線は右下へ移動する。この図1のイメージから,私たちは土を見ると,土の含水比をなるべく最適含水比に近く調整して締固めを行えば,土を良く締め固められると安易に考えてしまいがちである。しかし,土の締固めエネルギーが小さい(締固め能力の小さい転圧機械を用いた)場合,私たちが普段イメージする締固め曲線とは全く異なった下に凸の曲線が現れることがある。

その締固め曲線が図2である。

図2 低い締固めエネルギーによる締固め曲線の例

 図2の締固め曲線を示す地盤材料は,群馬県伊勢崎市産の一般的な砂質土である。締固めエネルギーを通常のA法,E法よりも小さくすることで,下に凸の曲線が得られた。これを実際の住宅地盤の現場で想定すると,当該造成地盤の締固め曲線(A法)が存在する現場で,住宅基礎下や擁壁背面,外構工事の埋め戻しに締固め能力の低いプレートコンパクタを使用するような場合にあたる。
 本試験は,通常のA法,E法の他に,小さな締固めエネルギーでの締固めを行うために写真1および表1に示す条件(SS-1~SS-4)で実施した。

写真1 小さな締固めエネルギーでの締固め試験装置
表1 締固め試験方法の一覧

 SS-1~SS-4の試験は,通常の締固め試験と比較して,小さなモールド(φ=60mm,h=40mm)を用いている,供試体は1層である,ランマーの径がモールドの径と同一であり締め固め時に試料が偏らないなどの違いがある。供試体に加わる締固めエネルギーは式(1)で定義される。

ここで,Wrはランマーの質量,hはランマーの落下高さ,Nbは1層あたりの落下回数,Nlは供試体の層数,Vは供試体の体積である。

締固めエネルギーがA法とSS-1~SS-4とで同一となるように,ランマーの落下回数を調整した。

 図2のA法とSS-1~SS-4の結果を比較する。これら5つの締固めの総エネルギーは約550kJ/m3で同一で,ランマーの落下1打あたりのエネルギーが異なる。締固めの総エネルギーが同一であっても,1打あたりのエネルギーが小さいと締固めができないことがわかる。すなわち,締固め能力の小さい転圧機械で長時間の締固め作業を行っても,地盤は一向に締め固まらないという事になる。また,小さな締固めエネルギーで最も締固めがしにくいことを示すグラフの谷部分は,含水比20%前後,飽和度40~50%となっている。

 この現象を物理的に説明するためには,不飽和土の土粒子間に働くサクションについて考える必要がある。土に適度な水分を与えて丸めると固い土ダンゴができるように,不飽和土の土粒子間にはメニスカス水が懸架し,土粒子同士を引き付けあうサクションが生じる。土に対して外部から締固めエネルギーを加えて土を締め固めるためには,次の(1)~(3)のようなことを考える必要がある。

(1)サクションを超える力で土粒子同士を引きはがせるか

(2)土粒子を移動させて別の空隙に再配置させられるか

(3)土粒子間の摩擦

などである。外部からの締固めエネルギーが小さい場合,(1)の土粒子間に働くサクションを打破することができず,その結果,土粒子の再配置も生じさせられないことから,乾燥密度は増加させられない(締め固まらない)。

 あえて乱暴に図2の結果だけで議論すると,仮に締固め能力の小さい転圧機械で転圧を行わなければならない場合は,高含水の土を用いた方が土は締め固まるという事になる。昔から,現場では「少し湿らせ気味の土の方が良く締まるし,沈下に対しても安全」などという話も聞いてきたが,十分な転圧が期待できないような場所がある場合には,得てして真実に近かったのかもしれないな・・・と感じている。

 土は,その場所ごとに千差万別であるので,全てにおいて図2のような締固め曲線の特徴があるとは思わないが,このような事例もあるという事を紹介したかった。土木の現場では締固め能力の不足などはめったに起こらないが,戸建て住宅の現場などでは締固めが不十分となることも多く,現にトラブルも多発している。宅地地盤に携わる地盤品質判定士は,従来の「土木的な土質力学(地盤工学)」だけでなく,「小規模建築的な土質力学(地盤工学)」にも思いを巡らせる必要があるのではないかと思う。  私も,これまで25年間,朝から晩まで土のことばかり考えてきたが,いまだに土は摩訶不思議で手ごわい相手である。安易に土を解った気にならず,常に新鮮な気持ちで土を考え続けたい。

参考文献
1) 土質試験 基本と手引き 第二回改訂版 図-9.6,(公社)地盤工学会,p. 77,2010.

森 友宏

地盤品質判定士。前橋工科大学 環境・デザイン領域准教授。
2011年東日本大震災における被災者の一人としての視点から,市民向けの防災技術・情報に地盤工学の知見を巧く取り入れられるような活動を心掛けている。
戸建て住宅の主な地盤調査方法であるSWS試験の適用性を広げるための研究や,ミクロ視点から土の物理を見直した不飽和土質力学の模索などを行っている。
幸運にも,研究ができる環境に身を置いているので,「それは無理だろう」や「それは意味があるの?」と思われていることを,打破できるような基礎研究を続けていきたいと思っている。

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