《地盤品質判定士コラム第19回》小規模建築物の基礎設計・がけ条例について(がけ上に建築する場合)

1.はじめに

 1960年以降の急激な都市開発・造成による古い擁壁や経年劣化が進んだ擁壁が多く存在しています。

 近年、豪雨や地震時に、がけや擁壁の崩壊による被害が多く発生しています。危険ながけや危険な擁壁に接近して建築する場合は、法的な規制がかかります。

■ 豪雨により擁壁が崩壊して建物も被災

■ 地震動により擁壁が崩壊して建物も被災

■ がけ上に建築する場合の規制等

2.がけ条例とは(がけに関する規定)

 がけに近接して建築する場合の規定です。

 がけ崩れから人命・財産を守るため、がけに近接する危険な敷地に建築物を建築する場合には、安全に対する措置を行うことを義務付けたものです。

■ 対象となるがけの定義

  勾配が30°を超え、高さが2mを超えるもの(自治体により3mの場合もあります)

■ 規制範囲

  がけ下からがけの高さの2倍以内の範囲(自治体により対象範囲は異なります)

■ 規制内容

  規制範囲内には、建築が禁止されています。

  (ただし、条件により建築可能です。以降のページに緩和条件を記載します。)

  また、がけ上の敷地の場合には、適切に排水処理をしなければならない、とされています。

    

※がけ条例の内容は自治体(特定行政庁)により異なります。

 ここでは、がけ条例の大まかな規定を説明させて頂きます。

 例えば、愛知県のがけ条例の場合、このように記載されています。

3.がけ条例の緩和(規制範囲内に建築を行う場合の対応策)

①土質を確認し、土質に応じた勾配を採用する。 

 自然がけや切土によって生じたがけの場合、土質に応じた勾配を採用し、がけ自体の安全を確認する。

 又は、安定計算を行い、がけ自体の安全を確認する。

②既存擁壁がある場合。

 既存擁壁が安全であることを確認できた場合は規制範囲内に建築できます。

 ■ 安全な擁壁の条件

   外観上の経年劣化等の異常なく下記に適合する擁壁。

    ・公共が設置する一般的な擁壁。

    ・民間が設置する擁壁の場合は、工作物や開発行為の検査済証が交付された擁壁。

    ・構造的に安定していることを確認し、有資格者(一級建築士等)が安全と判断した擁壁。

※がけ自体の安全が確認できない場合は、下記の(3)又は(4)の対策を行う必要があります。

③擁壁を新設(更新)する。

④建築物の基礎を深く定着(がけの上に建築する場合)

・がけ崩れが発生した場合に、建築物が影響を受けない対策及び、がけや擁壁に荷重の影響を与えない構造とする。

※がけ崩れが発生した場合、がけ下の敷地等に影響を与えることがあるので、危険性が高いもの(RC造又は間知(練積)擁壁以外の擁壁等)については、擁壁を新設(更新)することが望ましい、とされています。

4.木造住宅の対策例

 木造住宅の対策としては、鋼管杭を採用するケースが多いです。

 木造2階建住宅程度の建築物に、「支持力不足の対策」として鋼管杭を使用する場合は、杭状地盤補強として鉛直支持力しか考慮しません。そのため、「がけの対策」として鋼管杭を使用する場合、がけ崩壊時の土圧や地震時の水平力を含めた安全性を検証するのは難しいケースが多いです。

 下記に鋼管杭を採用した場合の簡単な仕様例を記載しました。

<杭基礎における仕様例>

  • 鋼管杭とする。
  • 支持杭とする。
  • 杭先端を安息角より下げる。
  • 安息角及び支持層への根入れを充分確保する。
  • 建物全体を杭基礎とする。
  • 杭と基礎の固定度を確保する
  • 基礎断面の検討を行う(躯体の幅、鉄筋量等)

※がけ条例の内容は自治体(特定行政庁)により異なります。

ここでは、がけ条例の大まかな規定を説明させて頂きました。

建築確認申請には、建築基準法及びその地域のがけ条例の基準に従う必要があります。

※過去の災害においては、がけ条例の規制外である2m未満の擁壁が被害を多く受けています。2m未満の擁壁についても、がけ条例と同様な対策を行うことが必要だと思います。

※4号特例の見直し (2025年4月予定)

 木造2階建住宅は、4号建築物 → 2号建築物になり、申請時に構造関係の図書の提出が必要になります。
それに伴い、がけの上に建築する場合においても対策方法や構造計算等が厳格化されると考えられます。

後藤 弘明

地盤品質判定士。株式会社イートン所属。
建築物の杭基礎や地盤改良の設計が専門分野。
地盤品質判定士会の活動を通じ、宅地の安全性についての知識を深め、一般の方々及び建築関係の方々に情報を発信していければ思います。

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