《地盤品質判定士コラム第2回》大規模盛土造成地とは 

地震による宅地の被害

 阪神・淡路大震災や東日本大震災などの大地震において宅地が大きな被害を受けましたが、特に、谷を埋めた造成地あるいは傾斜地盤上に腹付けした大規模な盛土造成地において被害が顕著でした。前者が谷埋め盛土、後者が腹付け盛土と呼ばれています。これらの被害は、盛土と地山との境界面や盛土内部をすべり面とする盛土の地すべり的変動、言い換えれば「滑動崩落」が生じ、造成宅地において崖崩れや土砂の流出が発生しました。

 これらの災害は、高度成長期に多くの宅地が開発されてから顕著になったもので昔は意識されてなかった災害です。釜井先生の著書「宅地崩壊」(HNK出版新書)によれば、1978年の宮城沖地震で一部の学者から指摘されましたが、広く認識されるようになったのは阪神・淡路大震災以降だそうです。

宅地耐震化事業

 このように大規模な盛土造成地が大地震で大きな被害を受けたことを受けて、国は安全性を確認し危険な箇所に対策を講じようという事業を行っています。この事業は「宅地耐震化推進事業」と呼ばれるもので、滑動崩落に対して危険な大規模盛土造成地を抽出し、安定性の調査や必要な対策を行う場合に、助成金が支給されるというものです。対象となる大規模盛土造成地は、比較的古い谷埋め盛土か腹付け盛土のうち規模が大きいもので、下図(※1)のような条件に該当するものが対象となります。この制度についての詳細は、国土交通省のホームページに詳しく示されていますのでここでは省略させて頂きますが、なかでも「わが家の宅地安全マニュアル 滑動崩落編」は非常に分かりやすい資料ですのでご興味があればぜひ参照して下さい。

※1 大規模盛土造成地の図解(国土交通省ホームページより)

盛土の範囲の調べ方

 谷埋め盛土や腹付け盛土が対象であると述べましたが、すでに盛土されて長い時間が経過した宅地では、地表を見ただけでは盛土かどうかは分からないのが普通です。そこで、現在と昔の地形図や航空写真からデジタル化技術によりそれぞれの標高を求め、それらの差から盛土厚さを算出し盛土範囲を推定するという方法が用いられています。もちろん、古い地図や航空写真がいつの時代かによって古い盛土が判別できなかったり、使う資料によって算出精度がまちまちになってしまいますので、その結果だけで判断するのではなく、地形・地質に詳しい技術者が現地で確認する必要があります。

 なお、谷埋め盛土に関しては上の図に示されているように面積3,000㎡以上の盛土造成地が対象とされています。この3,000㎡とはどのような目安の面積でしょうか。仮に正方形とすれば、1辺55m程度の敷地です。大雑把な目安としては、戸建て住宅10数戸分に相当するイメージと考えればよいでしょう。3,000㎡という数字は比較的よく使われているもので、土壌汚染対策法や開発許可などでも基準となる面積として使われています。

地盤品質判定士の役割

 住民や自治体の職員は、宅地の防災に対して詳しくないのが普通です。宅地防災を取扱う技術者は、地形・地質学、地盤工学の専門知識のみならず、宅地の法律や関連制度にも詳しくなければなりません。ここに、地盤品質判定士が活躍する場面があります。

 例えば、前述した大規模盛土崩落対策に関する委託業務(変動予測調査)などの技術責任者としての役割や、住民の宅地防災に関する相談や住民による日常点検の指導など多くの役割があります。今後ますます地盤品質判定士に対する社会的な需要が高まってくると考えられます。

「盛土」か「盛り土」か

 ところで、上記の説明において盛土という用語を用いてきましたが、新聞・テレビなどのマスメディアでは「盛り土」という表現が目につきます。最近では、ほとんどのマスメディアが「盛り土」を採用しているように思われます。

 一方、行政が使う用語は「盛土」で統一されています。これは、平成22年に内閣総理大臣から出された内閣訓令第1号「公用文における漢字使用等について」において、複合語の表記法の例として「盛土」が明記されていることによります。また、地盤工学会の標準用語として「盛土」が採用されているため、学会や業界の専門家が用いるのも「盛土」に統一されています。なぜマスメディアにおいて「盛り土」が用いられるようになったのかは分かりませんが、土を盛るという意味の「もりつち(盛り土)と「もりど(盛土)」がゴチャゴチャになって、何となく「盛り土」に統一されてしまったのではないかと想像します。行政、学会及び業界の表現とメディアの表現が異なれば一般国民の誤解を招きます。何とか、「盛土」に統一するよう、我々は機会あるたびに声を上げる必要があるでしょう。

岩崎 公俊

現:地盤品質判定士会理事、全国地質調査業協会連合会技術参与。地盤工学コンサルタント会社でエンジニア・経営者として長年勤務する傍ら学会や業界団体の活動に精力的に参加し、地質調査業の発展に取り組んできた。主な著書に、『地盤調査法』(共著)などがある。

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