《地盤品質判定士コラム第21回》盛土造成宅地の地震・豪雨被害例とその特徴

1. はじめに

 見晴らしの良い高台に住宅地を造る場合は,山の高いところを削り,谷や沢部の低いところにその削った土を埋め立てて,平坦な宅地を造成します。このようにして造成された宅地を「谷埋め型盛土造成地」といいます。谷埋め型盛土造成地は,一般に,工事費用(特に土の運搬費)を極力安く抑えるため,切土と盛土の土の量が同程度となるように造成します。その結果,切土と盛土の面積は概ね同じ広さになるため,見晴らしの良い高台でも盛土上に位置している住宅は1/2の確率で存在することとなります。

 また,同じ見晴らしの良い高台でも,台地の縁辺部等の傾斜地では,高い擁壁で土を土留めして平坦な住宅地を造成している場合があり,このような造成地は「腹付け型盛土造成地」といいます。

 谷埋め型盛土造成地と腹付け型盛土造成地は,どちらも地山(切土地盤)は硬く良質な地盤ですが,盛土は悪い条件が重なると大地震や豪雨に対して弱い特徴があります。

2. 地震被害例

 2011年東北地方太平洋沖地震(東日本大震災),2016年熊本地震,2018年北海道胆振東部地震における宅地被害状況を,それぞれ写真1~写真3に示しました。

写真1 2011年東北地方太平洋沖地震における仙台市内の盛土造成宅地の被害状況

写真2 2016年熊本地震における熊本県益城町の盛土造成宅地の被害状況

写真3 2018年北海道胆振東部地震における札幌市の盛土造成宅地の被害状況

3. 豪雨被害例

 豪雨では,谷埋め型や腹付け型に関係なく,盛土斜面が崩落し,下方の建物を押しつぶしたり,道路を塞ぐような被害が発生しています。

 写真4に示す豪雨被害では,盛土材料が砂質土からなる地盤で発生しました。これは,砂質土地盤では雨水が早く浸透するため,豪雨時には盛土斜面に大量の水が瞬時に作用したことが原因の1つと考えられます。このため,地山に砂岩が分布するような地域では,盛土材が砂質土である可能性が考えられるため,豪雨による斜面崩壊に留意する必要があります。

写真4 豪雨による盛土造成宅地の被害状況

4. 盛土造成宅地の地震被害形態

 盛土造成宅地の地震被害は,図1に示すように,盛土が横方向に変状する被害(滑動崩落・滑動変形)被害と,盛土が沈下する被害,擁壁が壊れたり変状する被害の大きく3つの形態に分類されます。なお,擁壁被害では,2宅地以上が連坦して変状している場合は,盛土の滑動被害と見做される場合があります。

図1 盛土造成宅地の被害形態

 

 また仙台市では,図2に示すような7つの要因で盛土造成宅地が被害を受けました。

図2 盛土造成宅地の被害要因(仙台市)

5. 地震動に対する盛土の材料特性

 盛土造成宅地の地震被害は,盛土材料の地震動特性の影響を大きく受けます。

 仙台市の盛土材料は経年劣化しやすい特徴があります。硬い岩塊であった盛土材料がスレーキングと呼ばれる現象により土砂化することで,非常に軟らかい盛土状態になるほか,地下水の排水不良により地下水位が地表近くまで上昇し,地震動で盛土地盤が不安定化しやすい特徴があります(図3参照)。

 益城町の盛土材料や盛土下の地盤は,火山灰質粘性土から構成されており,振動やこね返しにより液体状に変化する特徴があります(図3,図4参照)。

 札幌市の盛土材料は,地震動で液状化しやすい特徴があります(図3,図4参照)。

図3 地震被災地の盛土材料の特徴

図4 仙台市,益城町,札幌市の盛土材の地震動特性の比較

6. 盛土造成宅地の被害要因の特徴

 盛土造成宅地は,近年,大地震と豪雨の両方で滑動崩落が発生しています。また,地震被害は緩い盛土地盤,豪雨被害は緩い砂地盤の法面で確認されています。

 地震被害のメカニズムは,素因では,盛土の強度(締固め度やせん断強度)や地下水位,盛土地盤の地震動増幅特性等の要因が大きく影響し,誘因では,震度(揺れの大きさ)や大きな揺れの継続時間,地震波の周期特性等の要因が大きく影響します。

 仙台市(2011年東北地方太平洋沖地震),益城町(2016年熊本地震),札幌市(2018年北海道胆振東部地震)の3都市の地震被害は,盛土材料に問題(経年劣化や地震動に弱い性質)がありました。このため,盛土地盤の土質特性の把握が重要となります。

 また,盛土地盤は,暗渠排水管の目詰まりによる地下水位の上昇や盛土材料のスレーキング等で経年劣化が進行します。このため,盛土地盤は長い年月とともに安定するのではなく,盛土材料が脆弱化したり地下水位の上昇等で不安定化する恐れがありますので,定期的に経過観察を行い,予防保全に努める必要があります。

佐藤 真吾

地盤品質判定士会 幹事(兼)東北支部長
(株)復建技術コンサルタント 技師長,仙台地方裁判所専門委員。専門分野は地盤分野全般。特に宅地造成地の耐震性評価に関する研究で博士号を取得。
2011年東北地方太平洋沖地震における仙台市,2016年熊本地震における益城町,2018年北海道胆振東部地震における札幌市の3つの宅地災害復旧プロジェクトにおいて,プロジェクトマネージャーとして従事。また,国の宅地耐震化推進事業では,全国の26自治体において大規模盛土造成地の変動予測調査に従事。大地震や豪雨で盛土造成宅地が被害を受ける度に,新たな知見が得られている。盛土造成宅地の被害メカニズムについては,まだ分かっていないことや,誤った認識が沢山あると感じている。盛土造成宅地の被害リスクや対策については,従来の固定観念に囚われることなく,常に新しい情報の把握が重要である。これまでの経験や今も継続している研究等で得られた知見を,専門家だけでなく,一般市民にもわかりやすく伝えていけるように活動を続けていきたい。

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